ハーグ条約の概要
ハーグ条約(正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)は、国境を越えた子どもの不法な連れ去り(例:一方の親の同意なく子どもを元の居住国から出国させること)や留置(例:一方の親の同意を得て一時帰国後、約束の期限を過ぎても子どもを元の居住国に戻さないこと)をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして制定された国際条約です。
- 条約の主な目的は、
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- 子どもを元の国(常居所地国)に速やかに返還すること
- 親子の面会交流の機会を確保すること
です。
日本は、2014年にこの条約に加盟しており、外務省や家庭裁判所を通じて返還請求などの手続きを進めることができます。
なお、子の返還請求は、国際結婚の夫婦のみに当てはまるものではありません。条約締約国に居住している日本人同士の夫婦間において発生した子の連れ去り・留置についても、ハーグ条約に基づいた子の返還請求ができます。
また、ハーグ条約の返還請求は、子供の親権を決めるというものでは無く(つまり、手続のなかでどちらが親権者として適切かといった判断はなされません)、子供の親権や面会交流を決めるために元の居住国に返す事を目的にしています。
子どもの返還請求が認められる要件(返還事由)
ハーグ条約に基づいて日本で行われる返還請求が認められるためには、以下の条件をすべて満たしている必要があります:
- 子どもが16歳未満であること
- 連れ去りまたは留置の開始のときに、子どもが条約締約国に常居所を有していたこと
- 子どもが日本国内に所在していること
- 常居所地国の法令によれば、連れ去り又は留置が、残された親の子に対する監護の権利を侵害するものであること
上記の要件が満たされる場合、原則として子どもは元の居所国へ返還されるべきとされます。
子どもの返還請求が拒否される場合(返還拒否事由)
以上の条件を満たしている場合であっても、以下の6つの要件のうちいずれか1つでも該当し、返還することが子どもの利益にならないとされる場合には、子どもの返還を命じてはならないとされています。
- 返還申立てが、連れ去りのとき又は留置の開始時から1年を経過した後にされ、かつ、子が新たな環境に適応していること
- 申立人(残された親)が、連れ去りのとき又は留置の開始時に、子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと
- 申立人が、連れ去りの前もしくは留置の開始の前にこれに同意し、又は、連れ去り後もしくは留置の開始後にこれを承諾したこと
- 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を堪え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
(例:申立人による子に対する虐待、連れ去った親に対するDV等) - 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
- 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること
これらの例外は、返還を「絶対」とせず、あくまで子どもの最善の利益に基づいて判断するという条約の理念に沿っています。
(ただし、1から3まで又は5に掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは,裁判所は,子の返還を命ずることができます。)
ハーグ条約の加盟国一覧
2025年6月1日現在、ハーグ条約には103カ国が加盟しています。以下の国々はハーグ条約に加盟しており、返還請求の枠組みが整備されています。
- 主要な加盟国(抜粋)
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- 日本
- アメリカ合衆国
- カナダ
- イギリス
- フランス
- ドイツ
- オーストラリア
- 韓国
- 中国(香港・マカオのみ)
- ブラジル
最新の加盟国一覧はこちら(外務省リンク)
外務省:ハーグ条約締約国一覧
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