
退去強制とは
不法滞在(オーバーステイ)、不法入国、偽装結婚などにより入管法上の「退去強制事由」にあたる外国人は、日本から国外に退去させられる手続に入ります。この手続きを「退去強制手続き」といいます。
退去強制手続は以下の流れで進んでいきます。
1.入国警備官による違反調査
違反調査とは、退去強制手続の第一段階であり、退去強制事由(入管法第24条各号に規定)に該当すると思われる外国人に対して、入国警備官が行う手続きです。
2.入国警備官から入国審査官への引渡し、入国審査官による違反審査
入国警備官は、監理措置に付する旨の決定がされた場合を除き、違反調査により容疑者を収容したときは、身体を拘束した時から48時間以内に、調書及び証拠物とともに、その容疑者を入国審査官に引き渡さなければならないとされています。
引渡しを受けた入国審査官は、容疑者が退去強制対象者(退去強制事由のいずれかに該当し、かつ、出国命令対象者に該当しない外国人をいいます。)に該当するかどうかを速やかに審査します。
3.特別審理官による口頭審理
入国審査官が退去強制対象者に該当すると認定した場合で、容疑者がその認定が誤っていると主張したときは、認定の通知を受けた日から3日以内に特別審理官に対し、口頭審理を請求することができます。この請求に基づき行われる審問手続きが口頭審理です。
4.法務大臣(地方出入国在留管理局長)による裁決
特別審理官が入国審査官の認定に誤りがないと判定した場合であっても、容疑者がその判定が誤っていると主張したときは、第3段階の審査に当たる法務大臣への異議の申出を行うことができます。異議の申出を受理した法務大臣は、直接容疑者を取り調べることはしませんが、入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、そして特別審理官の口頭審理という一連の手続で作成された証拠(事件記録)を調べて裁決することになります。
そして、法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した場合は、主任審査官にその旨を通知することによって、主任審査官が退去強制令書を発付することになります。
5.退去強制令書の発付
入国審査官の認定又は特別審理官の判定に服したことの知らせを受け、かつ、在留特別許可の申請をしないか、あるいは法務大臣への異議の申出に対して理由がない旨の裁決の通知を受け、かつ、在留特別許可の申請をしないときは、退去強制令書が発付されます。
6.送還
退去強制令書の発付を受けた者は、原則として国籍国に送還されることとなります。
この流れの中で、弁護士が重要な役割を果たすのが 「在留特別許可」です。
在留特別許可とは
法務大臣の裁量により、特別な事情がある外国人について、退去強制事由が存在している場合であっても日本での在留を許される制度です。
つまり、退去強制を回避し、「日本での生活を続けることができる可能性」を残す唯一の方法です。
法務大臣は、外国人が退去強制対象者に該当する場合であっても、次のいずれかに該当するときは、外国人からの申請又は職権により、在留を特別に許可できるとされています。ただし、当該外国人が無期若しくは1年を超える拘禁刑に処せられた者又は入管法第24条第3号の2、第3号の3若しくは第4号ハ若しくはオからヨまでのいずれかに該当する者である場合は、本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限られます。
- 永住許可を受けているとき(入管法第50条第1項第1号)
- かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき(同項第2号)
- 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき(同項第3号)
- 難民の認定又は補完的保護対象者の認定を受けているとき(同項第4号)
- その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき(同項第5号)
在留特別許可は、本来、我が国から退去することを強制される外国人に対して、法務大臣が例外的・恩恵的に在留を特別に許可する措置です。在留特別許可をするかどうかについては、個々の事案ごとに諸般の事情を総合的に考慮した上で判断されます。
在留特別許可が認められやすいケース
出入国在留管理庁が示すガイドラインに基づき、次のような場合には許可の可能性が高まります。
- 日本人や特別永住者の子である場合
- 日本人・永住者・定住者の配偶者との間に「実子」がいる場合(養子は対象外)
- 難病・障害など特別な治療を必要としている場合
- 自ら入管に出頭し、不法滞在を申告した場合
- 約20年以上日本に滞在し、仕事や生活基盤を持っている場合(ただしケースバイケース)
例えば:-
- 20年以上日本で生活し、日本の学校を卒業した子どもがいる
- 日本人配偶者との間に生まれた未成年の子を育てている
- 難病治療を受けるため、日本以外での生活が極めて困難
このような事情が存在している場合は、在留特別許可の可能性が高くなります。
提出すべき書類
入管に自主出頭すると一定の書類を提出するよう求められることがあります。それらの指定された資料を用意することは当然ですが、入管から指定される書類以外にも、自分に有利な事情を示す証拠を積極的に提出することが在留特別許可の手続きにあたっては極めて重要です。
- 日本人配偶者・子との関係を示す書類(戸籍謄本、出生証明書など)
- 医師の診断書や病院の治療記録
- 配偶者の勤務先からの在職証明・配偶者の課税証明書や給与明細
- 友人・同僚・近隣住民からの嘆願書
- 本人が自ら書いた反省文・上申書(手書きが望ましい)
入管は、本人が時間をかけて作成した手書きの文書を重視する傾向にあります。
これは、申請者が事件に真剣に向き合っているかどうかを判断する材料とされているためです。
収容された場合の対処方法
退去強制手続の中で収容されることがあります。
この場合、次のような手段で対応可能です。
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- 監理措置制度の利用
- 監理措置は、監理人による監理の下、逃亡等を防止しつつ、相当期間にわたり、社会内での生活を許容しながら、収容しないで退去強制手続を進める措置です。
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- 仮放免の申請
- 仮放免は、収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている被収容者について、健康上、人道上その他これらに準ずる理由により収容を一時的に解除することが相当と認められるときに、収容を一時的に解除する制度です。
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- 退去強制令書の収容部分の執行停止を裁判所に申し立てる方法
- 認められる可能性は低いですが、状況によっては検討することが必要です。なお、過去の裁判例の中にはこのような執行停止が認められたケースも存在しています。
再審情願とは?
退去強制令書が発付された後でも、新たな事情が生じた場合は「再審情願」を申立てることができます。
- 結婚した
- 子が生まれた
- 難病を発症した
これらの事情を理由に、退去強制の撤回と在留特別許可の付与を改めて求めることが可能です。
当事務所のサポート内容
当事務所では、在留特別許可の申請に関して、以下のような包括的なサポートを行います。
- 在留特別許可の可能性についての診断
- 必要書類の作成・翻訳・証拠資料収集の支援
- 嘆願書や意見書の作成(本人が作成する文書に対する修正指導も含む。)
- 入管への出頭や担当官との面談・審査への同行
- 監理措置、仮放免の申請、再審情願の申立て
よくある質問(FAQ)
- Q1.在留特別許可は誰でももらうことができますか?
-
A.
いいえ。在留特別許可は、法務大臣の裁量によって判断されますので、誰でも必ずもらうことができるというわけではありません。ただし、入管庁が公表している「在留特別許可に係るガイドライン」に当てはまる事情があれば、在留特別許可がなされる可能性は高くなります。
- Q2.在留特別許可の申請にあたって弁護士に依頼する必要はありますか?
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A.
必須ではありませんが、入管法に精通した弁護士の専門知識を活用することにより、証拠のまとめ方、嘆願書の作成方法などに差が出てくることは否めません。弁護士に依頼することで在留特別許可を得らえる可能性は飛躍的に高くなると言えるでしょう。
- Q3.入国管理局の収容施設に収容されている家族を早く解放するためにはどうすればいいですか?
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A.
監理措置あるいは仮放免の申請が必要です。保証金の支払いなど条件がありますが、弁護士が関与することにより早期の解放につながるケースもあります。
- Q4.再審情願ができるのは一度だけですか?
-
A.
再審情願に回数の制限はありません。前回の申請後に新しい事情が生じたというのであれば、何度でも申請を行うことは可能です。

在留特別許可は「人生を左右する最後のチャンス」といっても過言ではありません。
私たちは、依頼者の「日本で暮らし続けたい」という思いを最大限尊重し、全力でサポートします。
